2023年12月

第227回
2023年12月13日
課題図書:「文明の子」太田光

今回は”芸人が書いた小説”をテーマに課題図書に選んでみたいと思った。
かなり幅の狭い選考の中から選んでいただいた。
候補の中から選ばれたのは、太田光の「文明の子」。

太田さん(もとい爆笑問題)に対しての僕の印象は、ボキャブラ天国の「不発の核弾頭」、爆チュー問題のネズミ、太田総理、ピカソを愛することを神田伯山にイジられまくる、等々。数々の司会をやっていてもう上がりでも良いくらいのキャリアなのに毎月新ネタを作って漫才をやる現役漫才師。芸人に愛される芸人。ピエロが好き。

年始から年末までメディアに出ていて、どんな姿でどう動きどう喋るか、好き嫌いに関わらず現在進行形でみんなに知られてしまってる人。きっとものすごく忙しい中でこの「文明の子」も執筆している。
そういう方が書いた小説について今回語ってみた結果、みなさんの感想や意見の着地するところがちょっと普段の課題図書とは違った赤メガネの会になった気がした(良くも悪くも)。

「文明の子」は太田さんの二作目の小説。
作中には「鳥人間、天使、万物創成マシーン、空飛ぶクジラ、サンタクロース、ピーターパン、大怪獣とウルトラマン、多次元遺伝子改造…」といったファンタジーとSFの要素と現実が絡みあう世界が展開されていて、その短編群を二人の少年のストーリーが繋いでいるような構成になっている。

太田さんが今作を書こうと思った動機があとがきに記されていて、

・2011年の震災で世間に溢れるネガティブな言葉に関して、目に見えない放射能にはこれほど敏感なのに、被災地に居る人の心への、目に見えない言葉の攻撃性にはどうしてこれほど鈍感なのだろう、と感じたこと
・ある政治家との「いじめ問題」についての対話の中で、過去に必死に生きた人のおかげで今の文明が実現されているのに、実現させたその人自身が今を否定するのは変じゃないかと思ったこと
・父との思い出のこと

とある。
その思いは、ファンタジーと日常が混ざり合う物語の中に太田さん流の優しさと毒と笑いで散りばめられていた。
とりわけこの小説には優しさが滲んでるように思う。
参加者からは、読んでいて、太田さんって優しい人だな、恥ずかしがり屋かも、鳥が好きなのかな、などの印象が浮かんだとのこと。この物語と普段テレビで見る太田さんへの印象からか、メンバーからは「テレビのイメージとのギャップが大きい/太田さんの印象が変わった」という声を多く聞いた。

小説の語り口はとても整った、整いすぎてるくらい癖のない文章で読みやすい。けれど、もっと太田さんの作家としての個性が見たかった意見が多かった。太田さんの思うことや大事なことはとても描かれているけど、それを太田さんがどんな文体で語るのかも期待してしまうからか。
また、沢山の短編が緩やかに繋がっていく中でこれが最後どうなるのかの読後感が物足りなかったとの感想も。もちろんそのもやっと感も作者の意図するところかもしれないけれど、もっと濃いものを期待してたという声。

中々はっきりと、面白い!という感想を持ちづらいこともあったからか、感想の主軸が物語よりも作者の太田さんについて語る場面が多く、メンバーの方からそれについて指摘が出た時は思わずハッとしてしまった。普段は作者について語るより物語のあそこがどうだったとか、その意見で盛り上がることの方が多いのに、作者がお茶の間の有名人だった時には、また全然感想の扱い方が変わっていくところが何か興味深かった。

個人的に、例えばビートたけしの小説を読むと、「あぁ、芸人ってかっこいいな」と痺れてしまいその感覚が好きなんだけど、たけしさんと似ている芸人だと思える太田さんが小説では一貫してかなりフィクションな物語から語ろうとしているのはまた意外だった。意外だったけど、この年代ってSFがすごく身近な世代なんだろうか。松本人志も最初の監督作はSFものだし。

この本を書く動機が社会的に大きな題材(災害・社会問題)からのものだったことで、今作の内容はかなり広い事柄に触れて描かれているけど、太田さんが”芸人に対する信頼や愛”を色々な場面で語っているのを聞いた自分としては、芸人を題材にしたもっとパーソナルな小説を書いていただけたら、それも是非読みたいなぁと熱望してしまう。
そんな筆者の新作「笑って人類」は536ページの大長編。太田さんはラジオで読んでくれと何度も言ってる。発売から10ヶ月経ってもまだたまに読めと言っている。このレポートを書き上げた今、さっそく読んでみることにする。きっと根っこにある人の優しさは変わらず書かれてるんだろうなあ。

ー 文・ 松永 健資 ー