2020年4月26日
第167回課題図書:「熱源」川越宗一
アイヌの少女が主人公、漫画ゴールデンカムイの面白さを 赤メガネメンバーに知ってもらいたい! という事で地道な活動を続けてきた私、 今回直木賞受賞作品「熱源」が課題本になるなんて、 まったく感無量であるっ! 私が初めてアイヌを知ったのは、 少数民族の紹介をしている本を読んでいた時だ。 アイヌの民族衣装、その大胆な美しい模様に私は一瞬で虜になった。 彼らは狩猟文化であり、厳しい自然のサイクルの一部として生きる術を持っていた。 動物や日々使う道具もカムイ(神)として大事にし、その文化はユカラ(神謡)や儀式、 踊りなどで子孫に受け継がれた。トンコリ(樺太アイヌ五弦琴)やムックリ(竹口琴)の不思議な音色と輪唱の独特な音色はシャーマニズムの様でもある。 そのような文化がここ日本にも存在しているという事を知ったとき、 私の常識(日本=単一民族)と閉塞感は打ち破られ、安堵を覚えた。
さて今回の小説「熱源」は、赤メガネのメンバーの多くにとっては、 未開の地へ足を踏み入れるかの如く冒険心と興奮を感じたようだ。 まさかこれが史実に基づいたフィクションだったなんて、 どこまでが本当なのかが気になる、いい意味で振り回された、 といったような人もいた。私もこの時代、北海道はこんなにも多様な民族や、 背景の人々がいたのかと驚いた。 今回はとにかく壮大な物語だ、ロシア、ポーランド、樺太(サハリン)、日本と 場所を変え、それぞれ主軸たる人物が入れ替わる。 登場人物をもっと掘り下げて、上中下の3巻として描いてもいいくらいだ、 今回は名前がなかなか覚えられなかった、当て字のおかげで覚えられた、 と言っていた人もいた。 登場人物の名前を正確に発音出来る人がいたら教えてほしい…。 本の内容を簡単に説明すると、世界の近現代史、歴史の大きなうねりに翻弄され、 抗い続けた人々の物語だ。 樺太アイヌの強制移住、コレラの猛威(当時はコロナ以上に情報が少なかったであろう、その恐怖はいかばかりか)、明治維新による日本人同士の軋轢、世界では侵略戦争が渦巻き、支配欲に学問が汚され、先住民の平和な暮らしが踏みにじられていく-。 ポーランド人のピウスツキが自己嫌悪した無意識の優劣意識、 樺太アイヌのヤヨマネクフが感じた、文明という名の下、強制的に日本人へ同化させられる事への違和感、チコロビーが言った「人(アイヌ)は、自分のほかの誰のものでもないんだ」という言葉。 アイディンティティが、赤の他人によって決められ、支配されるという怒りと悲しみ、 彼らは常にそれに立ち向かい、自己を確立していく。 そしてそれは生きる意味、熱になる。 「生きるための熱の源は、人だ。 人によって生じ、遺され、継がれていく。それが熱だ。」(本作P371) この本を読んだとき、単純に疑問に思った。人は何故人を支配しようとするのか? この問いに対するメンバーの答えが印象深かった。
人は潜在的に何かに支配されたがっている、健全な帰属意識を培わなくてはいけない。 ここで最後に、作中にも出てくる金田一京助との出会いにより アイヌ語をアルファベットで記した知里幸恵さんのアイヌ神謡集序文を結びとしたい。 「その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました。 天真爛漫な稚児の様に、美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた 彼等は、真に自然の寵児、なんという幸福な人だちであったでしょう。」 彼女もまた熱をもったアイヌであり、 その意思もまた受け継がれている―。
― 文・ハセガワ ―