2017年5月

2017年5月12日
課題図書:「苦海浄土」石牟礼道子
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日本が近代から現代に至るまでに遂げてきた発展の陰には、様々な犠牲が払われてきたことは、今ではよく知られていることである。
四大公害病といわれるものは、それらの最たるものの一つではなかろうか。
その四大公害病の一つ「水俣病」を我々は学校教育で知ったはずである。
しかし、水俣やその近隣の地域の住人や、それに関わる人または専門家でもなければ、「水俣病」についてどれほどのことを知っているのか。
それこそ、学校で習った程度の知識しかないだろうし、すでにその知識すらおぼろげになってしまっているのではないだろうか。
今回は、「水俣病」を題材にした作品を選んだ。
公害とはいったい何か、被害を受けた人々、地域はどのような惨状だったのか、そして我々はこれからどういった意識をもって生きていけばよいのか、
そういったことを学校教育よりも深く知ることが必要だと思ったからだ。

水俣病は、1956年5月1日に熊本県水俣市で発見された。
原因は、水俣市にあるチッソの工場が排出していた工業排水に含まれていたメチル水銀である。
これに汚染された魚介類を摂取した工場近隣地域の住人に発症した。
症状としては、感覚障害、視野狭窄、難聴、言語障害、運動失調などがあらわれる。
また、胎盤を通じて胎児にも影響するため先天的に同様の症状を持ち生まれてくる子供もいた。
なかなか原因物質の特定がなされず、発生からすでに50年以上がたつにもかかわらず、救済や保証の裁判が近年まで続いていた根深い問題でもある。

さて、石牟礼道子の「苦海浄土」である。
この本は小説である。
だからこそ、作者の文章力により水俣病の症状というものがより生のものとして伝わってくる。
巻末の渡辺京二氏による解説によれば、今作品は聞き書きではないし、ルポルタージュでもない。石牟礼道子の私小説であると語っている。
ノンフィクションであるのだが、作者のイメージであるということに驚きを覚え、だからこそ、鬼気迫る生々しさを感じさせる文章力に舌を巻くメンバーが多かった。
また、過去に水俣病に関するイベントに参加したことがあり、当時存命中の被害者に会ったことで、その惨状の一部をみることが出来たというメンバーもいた。
赤メガネの会には様々な年代のメンバーが参加しているのだが、一様に皆、冒頭で記したように、学校で習った程度という知識しか持ち合わせていなかった。
今回このレポートを書いている私は、水俣市のある熊本県と隣接する九州のある県で子供時代を過ごしたのであるが、
比較的近いところに住んでいながら、それでもその程度しか知りえていなかったのである。
ましてや、同じ日本とはいえあまり関わりのない地域に住んでいる人々にとっては、現実感が乏しくなってしまうことに、
悲しさを覚えたというメンバーの言葉に深く頷いたものである。
また、物事は一面からだけみることは出来ない。
水俣病を起こした原因のチッソは明治から水俣市にある大企業である。つまり、水俣市を潤わせてきた企業でもあるのである。
水俣病被害にあっていない水俣市の住人が、被害にあった地域の住人を厄介視していたということに驚きを隠せなかった。
それぞれの思惑や利益追求があるのである。

今回、本作を読むことにより公害の悲惨さをより深く知ることができた。
我々が今感じている幸福や様々な利便性の向上等々は、大きな犠牲があってのことだった。
それが時代だったということで片づけることはできない。
何が起こったかを知り、それを知識として未来を考えることが必要である。
なぜならば、実際に福島で起こったことは今まさに我々が直面している問題なのだから。