2016年9月

2016年9月16日
課題図書:「城」フランツ・カフカ
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この小説は、測量士として城の主に招かれたはずの主人公Kが、
多くの謎と矛盾に翻弄され、“城”という場所に、いっこうに辿り着くことが出来ず、
次第に、自己のアイデンティティーを見失っていく測量技師Kの物語である。

主人公Kが、城が所領する村に到着しところから物語は始まる。
しかし、城からは連絡が来ず、また城に行くことも許されず。
城の役人からは、「そもそも仕事は、依頼していない。」と、Kの存在は、完全否定され、
測量士としての仕事に就こうと、Kはあらゆる手を尽くすのだが、事態は全く進展しない。
事態が動いたと思うたびに、次にはそれが否定され、ゼロに引き戻されてしまう。
なんとも、読み手にとっては歯痒く、先行きが見えない物語なのだ。

Kの右往左往する様子が、600ページに渡り書かれているのだが、
本書は未完のため、Kが城に辿り着き、測量士として仕事に就くのか、結末は、わからないままである。

物語の途中で、Kはフリーダという城の官僚クラムの愛人であった女性と出会い、同棲を始める。
二人の関係に本当に愛はあったのか?
フリーダは、外の世界への憧憬があり、Kと一緒になることで、現実逃避という目的があったのか?
Kにとっては、存在を否定される状況下であったため、寂しさや疎外感から誰かを必要としたのか?
もしくは、アイデンティティーや、よりどころを見つけたかったのか?などなど、
二人の関係性において、赤メガネのメンバーの捉え方は、様々であった。

また、本書は、カフカ自身のアイデンティティーが、深く影響されたと考えたメンバーもいた。
彼が生まれ育った当時のプラハは、ドイツ人に支配され、独立に悩むチェコ人は、独立運動を展開していた。
このような環境下で、カフカたちユダヤ人は、チェコに生まれ育ちながらドイツ語を話し、
しかしドイツ人でも、チェコ人でもない“異教徒”という、どこにも属することが許されない状況に
置かれていたことで、カフカの文学は、こうした彼の生きてきた時代背景の考察抜きには、
語れないように思える。と読後感を話していた。

また、主人公Kが、彼が望む仕事を与えてもらえず、社会から閉め出され、その地の村民達に受け入れてもらえない状況を、メンバーのひとりは、「現代社会においての肩書」の重要性を再認識したと言っていたのだが、
人間は何かに所属することで、安心感や、自分の存在感というものを得られるのではないか。
これはまさに、カフカ自身の育った環境による、異邦人としての苦悩を、本書から読み取ったと思われる。

このように、本書について、メンバーの感想は様々であったが、全員に共通していたことは、
話の展開に抑揚がなく、また登場人物の会話が冗長すぎて、完読するのに、非常に苦労したことである。

普段、読書をすることに慣れているメンバーが、苦労しながらも完読し、議論する事で、
本書によって、「存在」「所属」について、自身の読書経験と重ねて考えてみるいい機会となったようだ。

私にとっては、これまで自身の周りに、このような“負荷”のかかる本書を共に読み、
談義する友人が身近にいなかったというのもあり、
自分だけで本を読み、わからないことがあったら、関連図書や時代背景などを調べてひとり満足していたのだが、
本書を読んで、自身が一番得られたことは、赤メガネの会に「所属」することで、
読書を共に楽しみ、あらゆる感想をもたらす本について、話し合える人たちが存在することなのかもしれない。
この読書会に出会えたことに改めて、感謝したいと思った。