2017年6月

2017年6月3日
課題図書:「楽園への道」マリオ・バルガス=リョサ
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スタンダードな英・米・仏の海外文学もいいけれど、それとは違う不思議な読後感を味わいたいのなら、ラテンアメリカ文学を。
ということで、今回課題図書になったのは、そのラテンアメリカ文学の巨匠と言われ、
ノーベル文学賞受賞者でもあるペルー出身の作家 マリオ・バルガス=リョサの2003年の作品「楽園への道」。
この作品では、画家ゴーギャンとその祖母で社会活動家フローラ・トリスタンの半生が、章ごとに交互に語られています。
ページ数は、632ページ。主人公二人合わせて約100年の歴史が、ここにあります。

フローラは、自分の経験をきっかけに、労働者や女性を、不利な状況から解放したい!という“人”のためにあるのに対し、
ゴーギャンは、ヨーロッパ芸術を否定し、原始文化を求めるあまり、本能的で自分勝手に生きる様が見てとれるのですが、
祖母と孫に共通するものは何なのか?
そんなこともふまえつつ、この作品について赤メガネのメンバーと読書会。

寸評としては、
「パラレルに物語か描かれているので、飽きることなく読了できた。」
「読んだあと、達成感をおぼえた。」「ゴーギャンについて、詳しくなれた。」
「二人が亡くなるシーンが印象的。」
という意見がある中で、
「海外文学の世界観は、なかなか入り込めないせいか、冗長に感じた。」
「今の時代、まだフローラが思い描いた社会になっていないのではないだろうか。」
「ゴーギャンという人の生き方は、嫌いです。」
という容赦のない感想もありました。

その他に、この物語の魅力のひとつとして挙げられたのは、主人公二人のことを第三者的な目で、
“語りかける人“がいるということ。それは、神なのか?作家であるリョサなのか?
答えは、読む人に委ねられるようです。
さらに、フローラとゴーギャンには、性別にとらわれず、性的な関係を持った相手があったことが記述されていたこともあり、
“性”と“セクシャリティ”についても、意見が交わされました。今の時代だからこそ、柔軟に、活発に話せることだったのかもしれません。
「男は女を、女は男を愛するべき。」という古き考えは、一体誰が決めたんでしょう?
ちなみにこの物語の中には、”マフー”という男と女の性を持つ人物が登場します。みんなで話したくなる要素が、この本にはぎっしり!
もちろん、ゴーギャンの遺した数々の作品も出てきますし、画家ゴッホについても、語られています。

最後に、今回の課題図書に興味を持たれた方に、赤メガネの会からご提案。メンバーのひとりが教えてくれた読み方です。
六人部昭典さんの「もっと知りたいゴーギャン 生涯と作品 」
を携えて読むと、より深くこの作品を楽しめるのではないかと。

赤メガネのメンバーは、文学だけでなく、美術に関してもただいま探求中です。


2017年6月23日
課題図書:「夏の流れ」丸山健二
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これから始まる夏を読書でも感じたい!そして梅雨を吹き飛ばしちゃえ!
ということで、今回の課題図書は『夏の流れ』(丸山健二)。
本作は「丸山健二初期作品集」と銘打たれているとおり、1966年の著者デビュー作から
1977年発表作までの7作品を収めた短編集です。
表題作の「夏の流れ」は、当時史上最年少(23歳)での芥川賞受賞を著者にもたらしました。

内容はというと、
死刑執行にたずさわる刑務官とその家族や同僚について描いたもの、
赤ちゃんを中絶しに行く夫婦の話
・・・などなど、短編ながらどれも濃いものばかり。
赤メガネのメンバーとも熱く濃いお話ができました。

以下、寸評。
「人間の闇やイヤな部分をつきつけられた」
「短編それぞれのタイトルを見るだけで余韻にひたれる」
「日常の中にドキッとするような残酷な描写が淡々と出てきた。こんな重い内容の本は読んだことがない」
「“古きよき昭和”ではなく“嫌な昭和”を思い出した」
といった、短編それぞれの重さ・濃さにフォーカスをあてた意見が多かったようです。
そんななか、全員の一致した意見が、
「二十歳そこそこでこの内容はすごい!」でした。
最近は若手の天才将棋棋士が話題になっていますが、
丸山健二さんも当時は天才若手作家と話題沸騰だったのかも・・・?

そして、寸評をふまえての意見交換。

「夏の流れ」が死刑執行の話だったこともあり、
死刑の是非や命の重さなど熱い議論がくり広げられました。
紙幅(画幅?)の都合で議論の内容には踏み込めませんが、
こういう話って普段なんとなくオトナなキレイごとで済ませてしまうもの。
そんな偽善や欺瞞を浮き彫りにさせるのが作者のねらいだったのかもしれません。
今回は避けがちなテーマを深く考えるいいきっかけになりました。
これも読書会ならではでしょう。

夏を感じるどころか、重いテーマについて考えさせられた本作。
と同時に、読書会の魅力も再発見できた本作。
「命を奪うことは誰にでもできるが、死を奪うことはできない」
昔の偉い人はこんな言葉を残しています。(本作には登場しませんが・・・)
見落としがちなことを再発見する、アツい読書の夏をおくりたいと思います。