2018年1月13日
課題図書:「忘れられた巨人」カズオ・イシグロ
個性豊かな人々が集まる読書会“赤メガネの会”も、今年で8年目に突入!これまで諸事情で参加出来なくなった人もいますが、去年のメンバーは全員、今年も続投を決意。とても嬉しい限りです。
今年も沢山の良書に出合いたい!そんな思いのもと、2018年初の赤メガネの会の課題図書に選ばれたのは、昨年のノーベル文学賞受賞者カズオ・イシグロさんの最新作『忘れられた巨人』です。
これまでカズオ・イシグロさんの作品は、代表作である『日の名残り』や『私を離さないで』を読んでいるメンバーも多く、なかなか他では味わえない読後感にお気に入りの作家として挙げる人もいて、私もそのひとり!のはずだったのですが…。
なんともまぁ、恥ずかしながら、この作品は読んでいても遅々として進まず。どうにか読了出来たものの、これまでの課題図書の中でかなり、手強い作品でありました。その理由は、これまでのイシグロ作品にはなかったファンタジー色が濃いことや時代設定にあったのかもしれません。
舞台は6世紀~7世紀、ブリテン島を制圧した伝説のアーサー王の時代が終わった頃。辺境の村に住んでいたブリトン人の老夫婦アクセルとベアトリスが、息子のいる村へ出立。道中さまざまな出会いがありつつ、“記憶”をたどっていく物語なのですが、途中遭遇するのは人だけではありませんっ!鬼、妖精、大きすぎる犬。そして巨大な雌の竜クエリグまで出てくるのです。だけど、ファンタジーにつきものの壮絶な闘いや冒険が描かれているわけではなく。んー。
読書会で参加したメンバーに感想を乞うてみました。
私のように、読みづらさを感じた人もいれば、スラスラと読めて、物語の世界に入っていけた人もいました。(羨ましい!)読みづらさの理由のひとつに、「これまでのイシグロ作品の中にあった何かしらの“共有”できる物が少なかったのでは?」という意見には、とても合点がいきました。
またこの物語の中で、ある“霧”によって人の“記憶”が徐々に薄らいでいくのですが、「老夫婦がこれまで共に歩んできた人生の中での“記憶”は、かけがけのない大切なものではあるけれども、二人が寄り添い遂げるためには、記憶しておかないほうがいいこともある。」という意見にも納得。
その他、印象的な箇所として挙げている人が多かったのが、島に渡してくれる船頭さんが語る場面です。二人の愛が本物なのかが試されます。ここのシーンは、実に素敵です。
物語というのは、読み手によって受け止め方や捉え方が違うのが面白いところ。ですが、参加者みんなが感じたことは、この小説が伝えたいことを半分も拾いきれていないのではないか?という事。それは、英国人が、あたり前に知ってるであろうグレートブリテン島=イギリスやヨーロッパの歴史、はたまたアーサー王の伝説、騎士、そして“巨人”にまつわる逸話など、それらのことをよく理解していれば、もっとこの物語に没頭できたのではないかということでした。
今後の課題として、“物語”を深く読むためには、その物語が抱える歴史を知っておくべきなのかもしれません。
作者のイシグロさんは、1990年代のユーゴスラビア解体に伴って発生した戦争に端を発し、この物語を着想。「社会や国家はどんなことを忘れ、どんなことは覚えているのか?」について書いた小説だとも語られています。
それが、この物語に出てくる“巨人”の正体なんでしょうか?私は、その巨人の存在を感じつつも、まだどんな姿をしているのかはっきりと見えていません。またイシグロさんがデビューから一貫してこだわってきた“記憶”についても、確かな着地点が見つからず。このあとも、悶々とした日々が続きそうですが、答えを見つけるべく、今後もイシグロさんを追いかけるつもりです。年明け早々、いい負荷のかかる読書体験でありました。