2020年6月7日
第169回課題図書:「濹東綺譚」永井荷風
初めての選書!古き良き小説といわれるものを選びました。
隅田川東岸の物語、
59歳の小説家・大江が小説の調査のために玉の井(東向島)へ出向く。玉の井で偶然出会った26歳の私娼お雪との出会いと別れの夏から秋が淡々と描かれていて、その中に劇中劇がきれいになぞらえられている。
大江は永井荷風自身といえ、私小説のよう。
「借金を返したらおかみさんにして」と言葉にするお雪に対し、深入りしないと徐々に敬遠していく、そのくせ遠くからこっそり様子を覗う痩せ我慢ボヤきおじさん、のお話。
この辺りに嫌悪感を感じたメンバーも。
男尊女卑的で上から目線という意見も出た。
太平洋戦争前の小説なので、男性的要素は強め。
しかし読み返すと江戸の名残をとどめ逞しいお雪の人柄を好み惜しんでいる、お雪よりも大江の愛が大きかったのではないかと想像ができた。
季節の移ろいと失われゆく江戸情緒の鮮やかさ、玉の井へ踏み入れる溝の悪臭や蚊のわずらわしさの描写は、なめらかで品を感じる文章。
部屋の中の2人の多くは語らない表面的な会話や空気感には、面白みがあり遊びでも本気でもない刹那的な愛が読みとれる。
永井荷風の一人好きの寂しがり、女性好きの女性不信が覗える、
叙情的で切なさをたたえた流麗な小説。
文末の 【作後贅言】も当時の東京が描かれていて面白い。
個人的には、読み返して良さの分かった今の季節にピッタリな小説、という感想です。
― 文・AZUMI ―