2017年11月24日
課題図書:「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」フィリップ・K・ディック
今回はSFです。個人的には好きなのですが、どうやら本を読み馴れた人でも、好き嫌いが別れるジャンルのようですね。
それと同時に、定義がしにくいジャンルでもあるらしく、諸説ある中でも広義に捉えたら『竹取物語』や『浦島太郎』もSFの範疇に入っちゃいます。
そんなSFの中から、第128回の課題図書として選ばれたのは、映画『ブレードランナー』の原作としても名高いフィリップ・K・ディックの1968年の作品『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。
5回は読んだという(映画は20回)フェイバリットのメンバーがいるかと思えば、SF自体が苦手!という人もいて、今回の読書会も面白くなりそうな予感。冒頭、ジェームズ・クックによりトンガ王室に贈呈された(1777年)ホウシャガメが、約200歳の天寿を全うしたという、ロイター通信の記事(1966年)を挿入しています。ちょっとしたタイムスリップ感を味わえるエピグラフでいいですね。
一方この小説では、“世界最終戦争後”の放射能に汚染された地球が描かれていて、ほとんどの生物が絶滅しています。おそらくは、人間も地球上では緩やかに絶滅を迎えつつあり、お隣の火星へ移住を進めています。本物の生物や、精巧に作られた“電気動物”がペットとして人々に飼われて、滅びゆく星の人々にわずかな癒しを与えてくれます。ただ、同時に虚栄心を満たしてくれる本物の動物は非常に高価であり、主人公はかつて本物であった自分の“電気羊”に不満を感じています。そんな地球に、過酷な環境下での労働用に開発されたアンドロイドが、逃亡してきます。電気動物同様、或いはそれ以上に精巧に作られたアンドロイドには、感情が芽生えるのかもしれません。人間との区別がつかないのです。そんな “アンドロイドと人間を分かつものは何か?” それがこの作品のキモだと、メンバーの多くが感じました。作中、選別する為の方法が登場して、そこでは感情移入出来るモノをヒトとしてジャッジします。この点にはメンバー一同もどうやら納得の様子。 1960年代後半、ベトナム戦争が泥沼化して、厭戦気分が高まるアメリカ社会の雰囲気は想像出来ませんが、ひょっとすると、人間とは何か?という根源的な問いかけに、直面していたのではないでしょうか。デカルトやカント、ヘーゲルみたいなマッチョな哲学者が語ると、どんどん遠ざかってしまうこの課題も、SFといういわば寛容なフレームの中で提起されることで、多くの人々が考える契機となります。犬を飼い始めた実家で家族の仲が良くなったと、家族の幸せについて思いを馳せたり、作品上梓から50年後の今日、AIやロボティクスという指数的発展を遂げつつあるテクノロジーの未来を想像したり、と、メンバーに与えた波紋はそれぞれです。難しい話を抜きにしても、もはや定番となった未来ギミックに溢れ、多くのフォロワーを生んだ当作は、エンターテイメントとしても総じて好評でした。