2016年7月

2016年7月16日
課題図書:「桜の森の満開の下・白痴」坂口安吾
20160716

坂口安吾。
彼は戦前から戦後にかけて非常に多くの作品を残した近代文学を代表する作家のひとりである。
が、にも関わらず、この赤メガネの会では105回目にして初めて選ばれるという意外さ。
これを考えると世界にはいかに多くの読むべき作家の多いことか。
いや、100回を超えたとはいえまだまだ精進し続ける必要がありと読書の神が叱咤の意味を
こめて微笑んでいるのに違いない。

さて、今作品の話。
短編集なのであるが、安吾の出世作といわれる「風博士」から代表作「白痴」、他に幻想的・
寓話的文学など1931年~1952年までの作品が盛りだくさんの内容で14編もおさめられていて
お得感満載。

戦時中という時代背景のなかで織りなす物語では戦争に対する描写に、寓話的な数編の物語に
描かれる血なまぐささには嫌悪感を抱くだろう。
しかし、その残酷さ残虐さを「美」としてあらわすことができるというのはすごいこと。
あるメンバーはそのようにとらえる。

そして、今作には、共通して「女」というものが描かれているようだ。
ある女性一人称の物語では、その女性の心的描写の巧みさから著者自身女性にコンプレックスが
あるのではないかと読みとるメンバーもいた。
確かに写真からうかがい知れる安吾はあまりもてそうには見えない(あくまで個人的主観)。
余計なことを書いてごめんなさい。

この場で、14編すべてについて書くのは文字数の都合上割愛させていただくが、
メンバーの人気投票で人気の高かったものをいくつか紹介しよう。

「桜の森の満開の下」
この作品、桜の下に死体が埋まっているという話だと思っている人が多かった。
またこれを読んでいる諸氏の中にもおられるかもしれない。
しかし、それは、梶井基次郎の「櫻の樹の下には」である。
お間違えのないよう気をつけられたい。
(ご存じのかた、偉そうに言っちゃってすいません。)
ちなみに、我が赤メガネの会で過去の課題図書として取り上げている。
桜の下は恐ろしい。というテーマの中で、人を殺すことをもすらなんとも思わない山賊と
残酷極まりない女の織りなす幻想的ストーリー。
最後に消えてしまった残酷な女は桜だったのか?それとも桜が山賊も女も狂わせていたのか?

「白痴」
戦争末期に、伊沢なる男と隣家にすむ白痴の人妻との奇妙な関係を描くストーリー。
この「白痴」ということについて。
戦争という異常状態の中で皆が白痴状態になる可能性を秘めていることを
あらわしているのではないか。
いや、そうではなく、そんな異常状態であるからこそ、力のない者は白痴のように
生きた方が楽なのでは。
一つのストーリーでもこんなに解釈がちがうのか!
諸兄姉は、どちらが安吾らしいと思うだろうか?
どちらも全然違ってたりして。。。

以上、たったの2編の紹介で恐縮だが今回はこのへんで。

いずれにせよ、読み手側に様々な想像をさせてくれ、
深く考える機会を与えてくれた今作に感謝。