第224回
2023年10月4日
課題図書:「天使のいる廃墟」フリオ・ホセ・オルドバス著/白川貴子訳
詩人としても高く評価されているスペインの作家が贈る、美しく奇妙で、どこかあたたかな物語。
スペイン文学を読んでみました!
ちなみにスペイン文学で有名なのは
『ドン・キホーテ』や『黄色い雨』など。
今回は『天使のいる廃墟』
作:フリオ・ホセ・オルドバス
訳:白川貴子
舞台は、生と死のはざまにある打ち捨てられた廃墟の村、「天空のパラダイス」という意味をもつ「パライソ・アルト」。
そこには人生を諦め、命を絶とうと決めた人々がやって来ます。
逆立ちで現れたうなじにコウモリのタトゥーがある少女、車に積んだ札束を燃やしたいという大物銀行家、横笛を吹きながら現れ、質問にも横笛で答える男……。
廃墟に住む「天使」は、彼らになぜパライソ・アルトにやってきたのか尋ね、生い立ちに耳を傾け、「向こう」への旅立ちを見送る。
生と死、日常と非日常の狭間にたゆたう不思議な場所と幻のような来訪者たちを描く物語り。ーあらすじより
パライソ・アルトは現実なのか、
それともこの世とあの世の中間の場所なのか…。
読書会では意見がわかれました。
読み進めるうちにゆらゆらと不思議な空間に連れていかれる本。
だんだんこの本の、生と死が融合した不思議な異空間に誘い込まれ
現実のことなのか、幻想なのかが曖昧になってしまうような雰囲気の作品でした。
どうやらこの作品、背景に社会的な批判や危機感もあったようです。
この本に書かれてある問題とは?
・死に対する問題(死生観)
・過疎化問題
今回の読書会では
死生観について話題あがりましたので
こちらについて調べてみました。
◾︎スペインはどのような死生観をもっているのでしょう?
→スペインにはカトリックの方が多いようです。(カトリックは自殺をタブーとしている)
この本がスペインで出版されたのが2017年。
◾︎2017年、スペインでは尊厳死に対してどのような考え方をもっていたのでしょう?
→まだ安楽死法が成立していなかった。
ですが、2021年3月にスペインで安楽死法が成立しています。
そして、6月から執行されました。
安楽死の合法化はヨーロッパではスペインが4ヵ国目だそう。
「回復の見込みがなく、耐えがたい苦痛を伴う重い慢性疾患をもつ人が、自らの生命を終わらせるために医師の助けを求めることを認める内容」
でも今回のお話しにでてくる人々は慢性疾患の方のお話しではない。
◾︎なぜ自殺を取り扱ったんだろう?
筆者は実際にあった一家惨殺事件に着想を得たそうです。
その村は痛ましい出来事がきっかけとなって住人が逃げ出してしまい、5年後には無人になりました。しかし著者は、後年そこへ命を絶ちにやってきた若い女性がいたことを新聞で読み、ずっとそれが心に残っていて、本書を書くきっかけになったそうです。
この本では、天使がパライソ・アルトにくる人たちに何か特別なことをしてあげるわけではなく、”話しを聞いてあげている”というのが印象的でした。
「その人のしたいがままに
その人が話したいことだけを聞いてあげる姿。」
そして、その人はいなくなる。
読書会のメンバーと話してハッとしたことは
もしかするとこの本には
死に対する考え方として
“生命をまっとうしなさい”ではなく
“それも自分で決めていいんじゃない?”というメッセージが込められているのではないか、と。
良い・悪い、正しい・正しくないって
そんな簡単に言い切れないことって山ほどあるなと。あらためて考えました。
この天使といわれている男。
この村に来た女性の6組中5人にキスしてる!とおもしろい発見をしたメンバーが。
天使にも欲はあるんですね。笑
なんだか人間っぽい。笑
どうやら村に来る人々は
映画、文学、歴史など
文化芸術に詳しい方が読むと
さらに発見がありそうです。
そして、パッと表紙を見た瞬間
『なんと素敵な本』と思わず手にとってみたくなる本のカバーのイラストは
石川県金沢市在住の画家である若林哲博さんが、この作品を深く読み込み描かれたそうです。
読書会のメンバーも寸評の際、
『表紙が素敵』と何人もの方が言っていました。
廃墟の村って、人の想い、思い出、目に見えない”何か”が漂っている気がして
私は暗い・怖いイメージがあるのですが
画家の若林さんが描いた絵は
あたたかく、どこか不思議です。
どんな物語りなんだろうと、とても惹かれました。
死のことを扱っている作品なのに
重々しくない。
人と感想を共有して
よりおもしろくなる本でした。
ー 文・宮崎夢子 ー
第225回
2023年10月25日
課題図書:「雨月物語」上田 秋成/鵜月 洋 訳注
江戸時代中期の9篇からなる怪奇小説。
怪奇小説といっても幽霊の怖さばかりではなく人間の根底にある執念、怨みつらみを描いた話や摩訶不思議な話となっている。
古典が苦手な人でも楽しめる一冊。
「菊花の約(きっかのちぎり)」は義兄弟へ自害をしてまでも会いに行く話。「浅茅が宿(あさじがやど)」は出稼ぎに出た夫を死んでもなお待ち続けた話。
この世の者でなくなっても約束を守る強い思いと絆が描かれている。
「吉備津の釜(きびつのかま)」は裏切られ続けた夫への怨みつらみを怪奇現象を通して描いた話。
「青頭巾(あおずきん)」は稚児を執愛しカンニバル(鬼)となった僧侶を成仏させる話。
「蛇姓の婬(じゃせいのいん)」は粘着質な蛇の化身に一目惚れをされた男性がかなり執拗に追われる話。
「貧福論(ひんぷくろん)」は、なんだかチャーミングな「黄金の精霊」と経済原理について対話をする話。
今回の参加メンバーも楽しめた模様。
古典なのに古びた感がなく楽しめた理由は、
人間の本質はどの時代もそう変わらず現代でも起こりうることだと共感できるから。
ここで本当に怖いのは人間の怨霊・生霊という話になり、実際にあった生霊の怖〜い話をしていると…
突然の雷鳴が!!何度も!
すごいタイミングでした、怖かったぁぁ。
(気を取り直し)、
雨月物語には『あれ、この話どこかで…』と思う箇所も。インスパイアされている作品はたくさんあるはず。
時代背景や登場人物の職業がバラエティ豊かで飽きずに読め、歴史上の有名人や中国の古典もふんだんに上手に使われていて面白い。
また上田秋成の年譜が事細かくあり人となりが想像でき250年の空白がぐっと近づく。
解説の『日本文学史上、もっともすぐれた怪異美と芸術性をうちたてた文学であった。』とあるのが納得する。
どの時代の人も雨月物語のゾッとする面白さに惹き込まれるのだと思う。
開催レポートを書いている間、妙な夢ばかりみてしまいます。
ー 文・AZUMI ー