2018年12月

2018年12月14日
課題図書:「新編 日本の面影」ラフカディオ・ハーン
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2018年最後の赤メガネの会。課題図書はラフカディオ・ハーンの「新編 日本の面影」です。
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、選者のnobuにとっては故郷・島根ゆかりの作家。
これまでも自由図書でハーンに関連する本を紹介してきましたが、
今回はメンバーの皆さんがどんな読後感を抱くのか、ちょっと楽しみでもありました。

雪女や耳なし芳一などの『怪談』でも知られているハーンは、
アイルランド人の父とギリシャ人の母の間に誕生。
幼くして父母と別れ、19歳でアメリカへ渡ってからはジャーナリストとして活躍。
そして40歳となる1890年(明治23年)に日本へとやってきます。
「日本の面影」(※)は、そんな彼の<東洋での第一日目>から始まるエッセイ集。
横浜に上陸した初日の感動や驚き、山陰への旅路、松江での暮らしや風習、文化などが、
外国人ハーンならではの観察眼と表現力で綴られていきます。

※この「新編 日本の面影」は、ハーンの著書「知られぬ日本の面影」のうち、
 山陰についての章を中心に新たに編集したもの。残るエピソードは「新編 日本の面影Ⅱ」に収められています。

さっそく、赤メガネの会メンバーの感想を聞いてみると
「すごくキレイな文章で、心に残る一冊」
「観察眼のすごさ」
「日本をほめてくれてありがとう」
「仏教や古事記なども勉強していて、感動というより感心した」
「民俗的な話、怪談エピソードが面白かった。「怪談」も読んでみたくなった」
「自分の知らなかった日本を知れて、むしろフィクションとして面白い」
と、これらは好意的な意見。

しかし、同時に
「日本を好き過ぎ。当時の海外の人が読んだらおとぎ話に思えたのでは?」
「本当にハーンが言うような日本だったのか…自分の歴史認識とズレてる」
「日本を誉めるために、西洋やキリスト教をオトす必要はない」
さらに、秋に旅行で島根を訪れたばかりのメンバーからは
「根拠のない日本礼賛は、高校生のバカッターを読まされてるよう。松江の良さは行ったらわかるし、これを読んでる暇があれば行ける!」
と、かなり辛口のコメントまで飛び出して…
“ハーンの日本贔屓と、引き合いに出される西洋批判”に、
違和感を感じたり、読む上で引っかかってしまった、というメンバーが半数以上を占める結果に。

島根出身者としては、神々しいような言葉で紹介される故郷を誇らしく思っていました。
が、改めて読んでみると、当時すでに西洋的発展を遂げつつあった横浜と比較して
「変わってはいけない」と力説し過ぎなのは確かだし、「田舎モンは田舎モンのままでいろってことかい!?」と、
自身の田舎コンプレックスを逆なでされるような気持ちにならないでもない(苦笑い)。

さらに、メンバーによる議論が盛り上がったのは<日本人の微笑>の章。
“道で外国人に殴られた日本人車夫が、微笑を浮かべた”といったエピソードに
「そんなことありうる?」
「西洋人の前ではそんな風になる(見える)ことはある」
と、これまた“ハーンの目を通した日本人像”に、さまざまな意見や疑問が沸きおこったのでした。

あるメンバーからは「ハーンの西洋批判には、彼の生い立ちも関係していると思う」という指摘もありました。
親代わりだった父方の大叔母による厳格なカトリック教育への反発、アメリカでは黒人との混血女性と同棲していたことを
理由に新聞社を解雇された、といった経験が、新天地・日本にユートピア幻想を求めさせたきらいはあるでしょう。

そんな愛情満載で綴られた松江での暮らしは、実際には1年3ヶ月と短いものでしたが、
神話や怪談的なものが身近に感じられる土地柄、それを語り部として聞かせてくれる妻セツとの出会いは
彼に大きな影響を与え、のちの名著『怪談』に繋がったバックグラウンドでもあります。
ちなみに「怪談」などハーンが著した日本の奇妙な話は再話文学=完全なオリジナルではなく、
元の話は人々の間で語り継がれてきたもの。
しかし「そこにハーン自身の言葉・解釈を付け加えることで、ハーンの作品となるのだ」という趣旨の話を、
ハーンのひ孫・小泉凡氏が講演でされていたのを思い出しました。
「日本の面影」では賛否両論(むしろ否の方が多い?)だった“ハーンの目線”ですが、
今後「怪談」を手に取る機会があれば、“ハーンの目を通した日本の民話”という観点をもって読んでみるのも、
面白いかもしれません。(今回の読書会で、メンバーの皆さんがハーン・アレルギーになっていませんように!)

最後に、1年ほど前、この本を片手に私が松江を訪れた時のことを少しだけ。
当然ながら、ハーンが綴った明治時代の面影は薄れ、松江城お堀端の武家屋敷にある
小泉八雲記念館は“近代的”にリニューアルされたばかりでした。
その並びにある小泉八雲旧居の縁側からは、本書の<日本の庭にて>に綴られた美しい庭園を眺めることができます。
最初は時間を忘れ、ハーンの描写の的確さに感嘆していたのですが、次第に感動を覚えたのは、
100年以上の時を経て、今もその景色が大切に守られていること。“変わらない”って、何もしない、ということではないんですよね。
また、松江市内の各所では従来のツウ向けだけでなく、若い女子向けの観光地化が進んでおり、嬉しいような、どこか淋しいような…。
ただ、そんなにぎわいから一歩、道を外れた寺町や大橋川のほとりを歩いてみて、怪談噺が似合うひっそりと湿った雰囲気こそが、
ハーンの心の故郷としてはふさわしい気もしたのでした。

そして最後に、
毎年恒例のクリスマスプレゼント交換会も行いました!
みんなでプレゼントしたい一冊を持ち寄り
誰にどの本があたるかは開けてみてのお楽しみ★
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