2019年7月19日
課題図書:「ソラリス」スタニスワフ・レム
まず最初に、ソラリスの文庫の表紙のデザインが美しい。惑星ソラリスの地表に広がる静かな海と空。この惑星を舞台にどんな物語が待っているのか期待が膨らむ。
ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表したこの作品は、過去にタルコフスキー監督、ソダーバーグ監督によって2度映画化され、コアなファンを持つSF作品として愛されている。原作を読んだことはなくとも「ソラリス」という名をどこかで耳にしたことがある人が多いはず。自分もいつか読みたいSF文学として長く気になっていた。
意思を持つ海に覆われた未知の惑星ソラリス。心理学者ケルヴィンはソラリス・ステーションに派遣されるが、研究員たちは何かに怯え、正常な精神状態ではなくなっていた。原因を探るケルヴィンだったが、彼もまたソラリスの海がもたらす不思議な現象に囚われていく・・・という話。
前半はミステリー要素が強く、後半になると概念的なテーマに移っていく。赤メガネメンバーの感想を総括するすると、「おもしろかったような気もするが、よくわからない部分が残る作品」という感じ。それから、物語の中で展開されるソラリス学についてはボリュームが多く読むのに苦労した、という意見が多数をしめた。
■解らない存在の定義
SFジャンルとしては鉄板である地球外生命体<エイリアン>とのファーストコンタクトものなのに、本作のエイリアンたるソラリスの海は、その姿も意図も最後までよくわからない。文中で膨大なページ数を割いて開拓史や組成などを説明されるが、作者レムの中にあるものを正確に読み取れる人は多分いないと思う。海と表現されるように巨大な質量を持つ存在であるが、その形状は様々なものに変化する。そして見る者の深層心理を現実化した「お客さん」を送り込んできたりするが、その目的が友好的なものなのか、攻撃なのか、または実験的なものなのか、明確にならない。このソラリスの海の解らなさをどう捉えるか、でこの作品の捉え方は変わってくると思う。自分としては、人間の尺度で考えうる意図や法則性を超えた存在とのコミュニケーションの記録、として見ると楽しく読むことができた。
■SFにおける愛の役割
ケルヴィンとハリーのやり取りはこの作品の中では特に分かりやすい部分であり、ラブストーリー的要素としてみることもできると思う。ただそこで生じた感情のやり取りは、物語の重要な要素としてではなく、ソラリスで起きる現象のひとつに過ぎない。
少し脱線するが、2014年の映画インターステラーではアメリア博士が「愛だけが、次元と時間と空間を超えるもの」として語るシーンがある。ソラリスでは対照的にケルヴィンとハリーの愛情について「でもそんなことが問題になる余地は、ここにはないんだ。」とドライに言い切っている。
■マシュマロマンもお客さん?
「お客さん」の姿がその人間の深層心理に強く残るものがら形成されるという点について、それってつまりマシュマロマン?という意見があった。映画ゴーストバスターズでは「破壊神の姿を選べ」と言われてレイモンド博士がうっかりマシュマロマン思い浮かべてしまう。もしかするとソラリスがそのあたりのルーツなのかもしれない。ソラリスのお客さんは単に深層心理というだけでなくトラウマ的な要素を含んだ存在かもしれないが。(ケルヴィンだけ偶然?)
最後に会の中では語りきれなった、いくつかの謎、疑問点を挙げておきます。
・スナウトとサルトリウスの「お客さん」はどうなったのか?
・ケルヴィンは何故ソラリスに残るのか?
・自分のところに現れる「お客さん」は誰になるのか?
― 文・SF大好きケンケン ―