2021年4月

2021年4月11日
第183回課題図書:「人新世の「資本論」」斎藤幸平

*エコバッグとか、マイボトルを持ち歩いている――そんなの「免罪符」でしかない。それで環境に良いことをしているつもりでいたら甘い!
*はやりのキーワードSDGs(持続可能な開発目標)は、目下の危機から目を背けさせる「大衆のアヘン」だ!

……と、のっけから読者に挑みかかる本書が、今回の課題図書『人新生の「資本論」』。2021新書大賞に選ばれています。

本書タイトルについてまず、説明します。「人新生」とは「人類の経済活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした年代」を指すとのこと。「資本論」とは? そう、19世紀に活躍した経済学者カール・マルクスの『資本論』。この歴史期的名著に今、再び光を当てています。環境を壊してGDPを追いかけてばかりの資本主義にブレーキをかけ、「成長なんかやーめた! おいら、もっと人間らしく、自然を感じて暮らしたいもんね」という人々が今こそ「脱成長コミュニズム」を展開すべし! というのがこの本のメインテーマです。

今回も参加メンバーがそれぞれの立場からこの本について意見をきかせてくれました。

まず熱弁を奮ってくれたのは、しげさんとケンケン。お引っ越しの荷解きもそこそこに参加してくれたしげさんは、「このままいくと地球は滅びると前から思っていた」と持論を披露。上から「前年比売り上げプラス5%ね」といわれたら、何がなんでも数字を達成しなければいけないシステムへの、忸怩たる思いを語ってくれました、代理店マンのケンケンによれば、今の広告業界ではまさに「SDGs」という言葉なくしては勝てないのだとか。人としての幸福と、資本主義経済の中で「作られた希少性を作る」ことを至上とする企業。そのはざまで結果を出し続けてきたふたりの告白は、本書の内容と見事にシンクロしました。

山梨のラジオ局をベースに活躍する牧ちゃんは、都会からの移住者が山梨で増えているのを実感する、といいます。コロナ渦を機に、価値観が変化しているのでしょう。ほかにも、本書で紹介されたファストファッションの実態や、ヘルシーな食生活ブームの影響でアボガドが過剰生産され南米では旱魃被害が起きている事実にも衝撃を受けたそうです。過去に赤メガネの課題図書にもなった『里山資本主義』とのつながりもここで指摘されました。

やすこさんはこの本を読んで、池袋東急ハンズ閉店のニュースを思い出したといいます。欲しいものを買いにいくのではなく、「こういうものがある!」とびっくりするためにハンズにいく時代にわたしたちはたしかに、生きていたのだと。また、本書でとくに印象に残ったのは、「職人仕事」が解体され、大企業のシステムに呑みこまれていく恐ろしさ。この問題を、醤油樽の職人がいなくなると失われる技と文化があることと結びつけて考えたそうです。そう、すべてはつながっているのです。

はせまりちゃんは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんをめぐる報道、陰謀論などについて、何が正しいか整理ができたと発言。資本主義は本当にやばい。資本主義はじつは持続不可能だと前から薄々気づいていたそうです。だからこそ、持続可能な生き方を体現するアイヌの人々に惹かれるという言葉に、日頃のはせまりちゃんの読書嗜好の筋道がみえ、一同深くうなずいたのでした。

さて、本稿の筆者、わたくしRに最も響いたのは、本書に脈々と流れるアウトロースピリット。思考停止して、巨大な強者にいわれるがまま、流されていいはずはありません。これまでも体制が肥大化するたびに、名もなき人々が声を挙げて社会をひっくり返そうとしてきました。成功もあれば、失敗もあった。歴史から学べることはたくさんあるのです。

世界文学もわたしたちに訴えます。体制側のいうことを鵜呑みにするな。ビッグ・ブラザー(ジョージ・オーウェル『一九八四年』より)にいいようにされ、AI(昔ならアンドロイド)に振り回されていていいはずはないと。「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」(村上春樹エルサレム賞受賞スピーチより)――その視点から、文学が生まれてきたのです。本書の著者、斎藤幸平氏は終わりに「3.5%」という数字に希望を託します。ある研究では、「3.5%」の人が「非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わる」と述べています。たった「3.5%」でいいのです。

便利な暮らしと引き換えに、何を差し出したのか。何が本当の幸せか――それを自分の頭で考えることを放棄してはなるまい。現代社会が全人類の真の幸せをほかのことでごまかしているなら、われこそが「3.5%」になってやろうという気概を捨ててはいけないのでしょう。本書が新書大賞に選ばれたのなら、未来は決して暗くはないのだと思います。

─ 文・安納 令奈 ─