2020年10月18日
第175回課題図書:「哀愁の町に霧が降るのだ (上・下) 」椎名誠
新型コロナウィルスの影響で、新しい生活スタイルに慣れはじめてきた昨今。
真摯に、今起きている事を考えたり、将来に対する不安を少しでも払拭するために、お硬い本を読む事もとても必要なことだけど、たまには息抜き。
赤メガネのメンバーとお気楽な気分で本を読み、みんなで笑いながら本について語り合いたい。
ということで、椎名誠さんの「哀愁の町に霧が降るのだ」を選書しました。
初版は、1981年。
現在御年76歳の椎名さんが、30代半ばに若かりし頃を振り返り執筆。今から約55年前の「これぞ!青春」を描いたエッセイです。
東京・江戸川区小岩の中川放水路近くにあるアパート「克美荘」。
安い家賃に惹かれて住んだ部屋は、昼でも太陽の光が入ることのない暗く汚い六畳間。そこで椎名さんを含め、四人の男たちが共同で貧乏生活をする。というもの。
アルバイトをしながら市ヶ谷の演劇学校に通う椎名誠さんをはじめ、一緒に住むのは大学生の沢野ひとしさん、司法試験合格をめざし勉強中の木村晋介さん、親戚が経営する会社で働くサラリーマンのイサオさん達。
お金がなくても、大酒を食らい、知恵を絞って食欲を満たす。個性豊かな仲間たちが繰り広げる毎日は、読み手の私たちを飽きさせることなく、すいすいと読ませてくれました。
読書会に参加したメンバーは、それぞれが大いに「楽読」。(勝手に造語。「挫折しそうになることなく、楽しみながら読む」ということ。)
メンバーからは、こんな寸評が。
「高度成長期にアウトローすぎて、びっくり」。
「夜中のラジオを聴いてるよう。」
「やんちゃぶりのスケールが大きい。」
「節約めしのひとつ、コロッケ丼を作ってみたら美味しかった。」
「人を惹き付ける魅力に溢れている。」などなど。
心に残るエピソードも様々で、
椎名さんが恋した倉庫に勤める羽生さんのこと、怪我人が出てもおかしくないプロレス大会、えっちらおっちらと遠くまで担いでいく布団干しなど。
昭和を知らない若い世代のメンバーも時代に関係なく物語に没頭できたようで、
今の時代では考えられない、しょうもないかのように思える出来事も、どれも愛おしく、赤メガネのメンバーを夢中にさせたようです。
「克美荘」に暮らした人達が、椎名さんだけでなく、全員が一角の人物になっているのがこれまた凄いこと!
この本の巻末に寄せられた角田光代さんのエッセイに書かれた文章が言い得て妙で、
「なにものでもなかった時間の無駄や馬鹿が、何ものかになったときの孤独を支える」。いたく納得せざるを得ませんでした。
コロナ禍で大勢で集うことは憚られるけれど、この本の登場人物たちが愛したお店のひとつ、東京新宿にある「池林房(ちりんぼう)」で赤メガネのメンバーと盛り上がりたいのが、近々の私の願い。
いい年齢になっても、椎名さん達を見習って、無邪気さは持ち続けていたいのです。
─文・ 山川 牧 ─