2017年10月

2017年10月6日
課題図書:「ペドロ・パラモ」フアン・ルルフォ
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1955年に出版されたルルフォにとって二作目の小説。 彼が“小説”として描いた作品は、短編集『燃える平原』と、この『ペドロ・パラモ』の二作品のみ。
ラテンアメリカブームの先駆けとなり、『百年の孤独』で知られるガルシア=マルケスにも影響を与えた作品と言われている。

語り手フアン・プレシアドは、母の死後、ペドロ・パラモという名の父を探しにコマラの街に辿り着く。
聞こえてきた声は、過去からの悲しいささめき。そこは、死者達の街だった。
いくつもの記憶の断片から語られる真実によって、徐々に明らかになっていくペドロという男の一生。
読者は、生者と死者の境目がわからず、現在と過去が交錯した物語へと引きずり込まれていく…。

今回の作品は、なんとも摩訶不思議な世界。
ラテンアメリカ文学は、過去の課題図書にも何度か選ばれているのだが、
共通して感じることは、生者と死者の関わりが深く、距離がとても近いこと。死者が生者のすぐ隣にいるような感覚は、とても興味深いものだった。
メンバーの意見で「死者と対話」という意味では、日本のお盆にも似たような感覚があるのでは?という意見もあり、
そのあたりは、日本人にとって共感出来るところなのかもしれない。
と、この作品をよく理解しているような文章ではじめてみたが、実のところを言うと、
今回このレポートを担当することが決まっていた私の読み終わった後の感想を一言でいうならば、“絶望”だった。
意味が分からないよぉ~泣 これじゃレポート書けないよぉ~泣 と、泣く泣く最初のページへ戻り、
二周目に突入したわけなのだが、それについては、後程。
読書会に参加してみると、最後まで読む事がきつかったという人が多数。
物語の構成が、沢山の断片から出来ているために、 うまく繋ぎ合わせながら読み進めて行くことが、やはり困難だっようだ。
「誰がどういう状況なのか?」
「スピーディーに読み進めないと忘れてしまう」
「どんどん次の場面に移ってしまう」
「一回読んだだけではわからない」
「相関図がないとわからない」などなど。
そんな意見からも分かるように、この作品は、一度読んだだけでは、なかなか理解しづらい作品なのかもしれない。

その他の感想としては、後半部分に見えてくるペドロ・パラモの一途な愛に感動したという人もいた。
自分の思うように土地や人を支配し、傍若無人な振る舞いだったペドロが、幼い頃から想い続けてきたスサナにだけは、愛情をみせる。
死んだ夫を想い、壊れていくスサナをじっと見守るペドロの姿が、確かにとても魅力的に描かれている。
さらには、自然描写の美しさに感動したり、メキシコの空気感も感じることができたりと、興味深いポイントがたくさんあった。

最後に、メンバーの感想に共感しながら再読した私が感じたことを述べておこう。
二周目に入っていくと、不思議なくらいに読み進めやすくなったことに驚いた。
登場人物の関係性や、所々に出てくる太字の台詞についても誰が言っていて、どんな意味があるのか?ということも理解出来たし、
構成の面白さにも魅了された。その世界観を受け止められたのだ。
話の断片を拾い集めるようにぐるぐると再読することで、気付かされることが、この作品にはまだまだ沢山あると思う。
よくわからないままでいたら勿体ない!お時間のある方は是非、二度、三度と読み返してほしい。
この物語は、新しい“本の読み方”も教えてくれた課題図書だった。私にとって忘れることが出来ない一冊となった。


2017年10月27日
課題図書:「銀の匙」中勘助
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今回の課題図書は、中勘助の処女作「銀の匙」でした。
主人公が、本棚の引き出しにしまった小箱の中にある“銀の匙”をきっかけに、伯母の愛情に支えられた幼年期、多感な少年時代を回想する物語で、自伝的要素のある小説です。

読書会に参加したメンバーの中で、1人を除いては、みんな初読み。
「美しい文章に感動した。」という人がほとんど。さらに「やはり日本人として忘れてはならない、使い続けるべき言葉を再認識させてくれた。」という意見もありました。

有名進学校のひとつ灘中学校で、故 橋本武先生の教えのもと、3年をかけて“読み込む”国語の授業で使われた教材として知られるこの小説は、思春期時代に、ひとりで読むと、もしかしたら100%理解することは難しいかもしれませんが、この世代にこそ、意識して読んでほしい一冊だと思うのです。

大人が子に向けて与える無条件の愛や、淡い初恋のこと、さらに兄弟姉妹との関係など、これから大人になっていく世代が、自我を確立していく上で、重要で大切な要素が数多く描かれているからです。

中勘助がこの作品を書いたのは、おそらく20代後半。
そこそこ社会を経験して大人になり、子供時代と久しい彼が、なぜこんなにも「子供目線そのまま」の文章が書けるのか…。
大人になると、子供の頃の記憶は薄れてしまいますよね。
どんな話し方をしていたか、どんなことを考えていたかなどなど。
この本を読んで、自分の幼少時代を振り返ることで、親や周りにいてくれた大人たちに改めて感謝の意を表するのも良いかもしれませんね。

知らないことを知るのも読書の醍醐味。
主人公である「私」は、伯母さんとたくさんの“おもちゃ”で遊ぶのですが、そのおもちゃが、聞いたことも見たこともないものばかり。
その中から、“海ほおずき”に、いたく反応したメンバーがいました。
植物の赤いほおずきは知ってるけど、海のほおづきの事を知らないメンバーが多数。
その場で検索して見てみたら
「思ってたのと違う」
「え、ちょっとグロテスクじゃない?」
「これ売ってるの?」
「そもそもおもちゃとしてどう遊ぶの?」
などなど、読書会に参加したみんなが、奇異な海ほおずきに興味津々でした。

最後に、この本を選んだきっかけとなったある作品を紹介します。
「鮨」岡本かの子
https://www.amazon.co.jp/%E9%AE%A8-%E5%B2%A1%E6%9C%AC%E3%81%8B%E3%81%AE%E5%AD%90/dp/B01DA6HFPS/ref=sr_1_cc_4?

岡本かの子さんは、「芸術は爆発だ!」でお馴染み、岡本太郎さんのお母さんです。
子供の頃、食事をしてもすぐ吐いてしまう息子が大人になって通う鮨屋で、
母親がひとつひとつ目の前で握った鮨を食べさせてくれたことを回想するお話になっています。
親子のやり取りが情愛に満ちていて、母の深い愛を感じずにはいられない作品です。

子を想う愛情。
普遍的なテーマですが、心暖まる一冊です。
今回の課題図書と合わせてお手にとって頂ければ嬉しいです。