2022年1月

2022年1月10日
第196回課題図書:「失われた地平線」ジェイムズ・ヒルトン

2022年、始まりの読書会。選書にちょっぴり緊張感もありましたが、「年末年始に読むのにちょうどよいページ数とわくわく感。」寸評も好評で、ホッとしました。(昨年の1冊目は「熊嵐」だったそうで、最初は、大事です♪)

 コロナ禍、旅に行きたい!という気持ちで選んだ「ジェイムズ・ヒルトン」の「失われた地平線」

今でこそ、楽園や、ユートピアの意味を持つ「シャングリラ」という言葉が、この本から生まれたというのが、興味を持ったきっかけでしたが、ストーリーは、思いがけない展開に。

 物語の主人公「コンウェイ(イギリス領事)」は、現地人(インド北部あたり)の暴動から、ペシャワルに逃げるため、小型飛行機で飛び立つものの。ここは!どこ??パイロット!!誰??機外の景色は、ヒマラヤ山脈!?気づけば、未開の地、チベット高原の奥地へ連れていかれるはめに。「シャングリラ」と呼ばれるラマ教の寺院に、助けられることになりますが、そこは不思議な場所で。食べるものに困らず、音楽も、本もあり、そこそこ西洋文化もあって、気になる女の子もいて「なにより!シャングリラにいる間は、歳を取らない!?」時間は、たっぷりある!!!「コンウェイ」は、大ラマの後継者に指名され、シャングリラで、ずっと過ごしていこう、と思った矢先。仲間の一人「マリンソン」からとある告白があって。。。ででで。勢いで、結末まで、書いてしまいそう(笑)

※以下、ネタバレあります。

読書会では、「構成が面白い」「キャラクターが立っている」「コンウェイの気持ちに入り込めた」「大ラマがペローとわかる展開に胸アツ」「電気グルーヴのシャングリラが頭に流れた」「シャングリラのイメージ、南国かと思っていたら、チベット?」「既視感ある展開も多いが、この本がルーツかもしれない」「西洋びいきが気になる」などの感想が。そのほか、「何故ペローが大ラマだとわかった?」「マリンソンとローツェンは付き合っている?」「どうしてコンウェイは、山を降りる決意をした?」「下山後マリンソンはどうなった?」など、それぞれの疑問についても、意見交換。

 選書した個人的には、「コンウェイ」に気持ち入り込んでいただけに、「マリンソン」の「目を覚ませ」の言葉に、ハッとして、全部、歳を取らないエピソードも、嘘だったのか?と読み取っていましたが。山を降りた「ローツェン」と考えられる女性が、ラストの病院では、信じられないほどの老女だったエピソードに、いやいや、シャングリラは、あるんだよ!という他のメンバーの受取り方に、目から鱗でした。本って、読書会って、本当に、面白いものですね。

 冒険小説でありながら、人生哲学であるところが、この本の魅力。「このシャングリラで、生きられるか」との問いに、メンバーの答えは、九人九色。

けんけんさんは、「Yes!アマゾンも届きそう」牧さんは「Yes!まず、3か月行かせて。じっくり本が読みたい」はせまりちゃんは「Yes!旅行だったら行きたい」ゆめちゃんは、「No!ほどほどより、傷つくこともちゃんと感じたい」健資くんは、「No!したいこととは違う」やすこさんは、「Yes!大変魅力的」しげさんも、知子さんも「Yes!緊張なく、怠惰でもいいなんて最高」私めぐみは、「絶対No!刺激が欲しい。ひとつの場所だと飽きてしまう」

 「シャングリラ」が、自分自身を見つめなおすことができる場所だとするならば、この本を読んだ後、自分が「今」何を欲しているのか、見える本なのかもしれないと思いました。そっか。刺激か。。。

 2022年の読書会も、どうぞ、宜しくお願いします。

─ 文・池田 めぐみ ─


2022年1月30日
第197回課題図書:「幕が上がる」平田オリザ

 今回の課題図書は「赤メガネの会」課題図書初の、青春部活小説。演出家平田オリザ氏の2012年の作品で、高校の演劇部を舞台にした物語です。2015年には映画にもなりました。
 高校時代といわれて「部活」の記憶がまだ新しい人、「別の人生」に思える人、「学校じゃなくて街中(マチナカ)の遊びに夢中だった」人など、まずはじつに十人十色なメンバーの高校生活思い出話がきけました。

***

 今回なんといっても盛り上がったのは、「高校演劇『あるある』・『ないない』を現役舞台俳優からきける!」というところ。そう、赤メガネの会にはプロの俳優さんがふたりもいるのです。KくんとYちゃんが、このようにまとめてくれました。

「ない」ところ:こんなにベストメンバーが同じタイミング(前後の学年)に揃っているはずない。主人公の高校生演出家は「オリザさんが乗っかって」いて、キレ者過ぎ。

「ある」ところ:全国大会までのステップ、顧問や親に関する記述は、ほぼリアル。この高校生たちの「熱さ」は、自分が俳優研究所に入ってからの演劇への「熱さ」と重なり、懐かしい。

 たとえば堺雅人さんのように、高校演劇から大スターが誕生することは実際にあるそうです。

***

 それ以外のメンバーでは物語に入り込めた人と、そうでなかった人とに分かれました。

 まず、入り込めた派。本書を課題図書に選んだSさんは、部活に打ち込む高校時代への憧れがあったとのこと。演劇部で活動していたT子さんは思い出がよみがえり「一気読み」。Y子さんは、本番の緞帳が上がる直前の描写を印象に残った箇所として挙げました。Aちゃんは作中登場するマンガを持っていたので読み直し、理解を深めたそう。R子ちゃんは「コロナ禍で頑張れていない自分に喝」とコメントしました。高校時代バレー部でならしたKKは「文化系部活のやつは信頼できない」と思っていたそうですが、この作品で発声練習やストレッチに励む高校演劇部の姿を知り、その考えをあらためたそうです。

 主人公の高校生演出家さおりの人間ができすぎている、という意見は、入り込めた・入り込めなかった派、両方から出ました。その一方で、前述の開演直前の臨場感や、ひとつのミスが連鎖的なミスにつながる緊迫感など、見せ場の描き方、読者を引き込む巧みさはおしなべて高評価でした。

 その一方、入り込めなかった派から出たのは「文体が合わなかった」という声。読み手に考えさせる余地がないとMちゃんが指摘。これは、すべてを説明せずにはいられないオリザ氏の脚本家なの性(さが)なのでしょうか。ところが、戯曲では「文面からにじんでくるところを受け取らせる」文体であるとのこと。エッセイや脚本も読んでほしい、とKくんが、平田オリザ氏の活躍の幅広さを説明してくれました。

***

 この小説のメインテーマは何か。執筆者Rは、Yちゃんがいったひと言に真理があると思いました。
「自分に嘘つくな」
 まさかのどんでん返しも、このメッセージを伝えるための布石だったのではないでしょうか。だからこそ、この小説の主人公は高校生でなくてはならない。

 物語の終わりのほうでこんな一文があります。この高校の「詩人」、滝田先生の言葉です。

「大人になるということは、人生なさまざまな不条理を、どうにかして受け入れる覚悟をすることです」

 不条理なんかまだ知らない。努力は必ず報われると信じて、目標に全力でぶつかっていく主人公たちがキラキラして見えた理由は、滝田先生のひと言に凝縮されているのではないでしょうか。
 自分に嘘をつき、現実に折り合いをつけることに、わたしたちは慣れ過ぎてしまったのかもしれません。

─ 文・安納 令奈 ─