2023年3月

2023年3月10日
課題図書:「この世の喜びよ」井戸川射子

帯紙に書いてあるこちらの言葉。
『思い出すことは 世界に出会い直すこと。』
私はこの本を読んで、自分の遠くにしまってあった記憶に再び触れて、懐かしい気持ちや大人になってからの目線で自分の記憶にもう一度出会え、なんてピッタリな言葉なんだ!と思いました。
と第一印象をお伝えしたところで。

●あらすじ
娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。

ほかに、ハウスメーカーの建売住宅にひとり体験宿泊する主婦を描く「マイホーム」、父子連れのキャンプに叔父と参加した少年が主人公の「キャンプ」を収録。ー(amazonより)

読書会での質問を考える為、インターネットやSNSで読者の方の感想を見ると
読んで良かった。というコメントから、わからなかった。というコメントまで賛否両論が書かれてあり、赤メガネの皆さんはどんな感想を持ってこられるのかとても楽しみでした。

そして、私が聞きたくなった質問は3つ!
●星★いくつ?
●芥川賞のイメージは?
● 『あなた』という二人称で物語が進んでいきますが、『あなた』がでてくることによってどう感じたか?

・まず★星3つをMAXに星いくつだったか皆さんに質問したところ、★1の方も★3の方も!!
やはり赤メガネでも、楽しめた方と『芥川賞って感じだな』というお声!

きたきたきた!
・その『芥川賞』ってどんなイメージをもたれていますか?!

→芸術作品。その時代を切り取った作品。(Mさん)
→日頃使っていない感覚を呼び起こされる。心地よく新鮮な感覚。(Yさん)
→最先端。すぐに受け入れられない。もどかしさを感じる。(Tさん)
→盛り上がらない。山がないまま終わる。(Sさん)
→審査員が有名な方々なので、オンリーワンな文体を書ける人を選んでいるのではないか?(Kさん)
→エンタメに振ってない。分析の余地が残っていて、すべてわかりやすいようにとはしていない。(Kさん)
→その人にしかわかりえない。自分とは共感する部分がなくても、そういう人の存在を知れるから芥川賞が好き。(Hさん)

なるほど。
わかるわかると読める世界観ではない模様。
でもその人独特の世界感に触れれて、楽しむことができるんですね!

お話しをしている中で
いい小説=自分に関係している、影響しているものだと思う。
とおっしゃっていて、確かに、本でも舞台でも映画でも音楽でも私が良いな!良かったな!って思うものは何かどこかに共感して、心が動いたからそう感じている気がします。

そして、この本も井戸川さんの見た世界を通して私は自分の忘れていた記憶を呼び起こしてもらい、心が動いたからすごく楽しめた。

【この世の喜びよ】は、
『あなた』という二人称で物語が進んでいきました。
主人公は、自身の行動や思考であるにも関わらず自身のことを『あなた』と俯瞰して呼称します。
この呼びかけの感じ方が様々でおもしろい。

・『あなた』に対してどう感じたか?

→そんな事がありましたよね。と自身が達観したから書けるんだなと思った。
→この人は誰なんだ。と『あなた』に注意して深く読めた。
→『あなた』がまどろっこしい。もう一度振り返りたくなる。
→男だから共感できない。女の人にしかきかないのではないか。
→『あなた』を『私』と置き換えられる。
『私』だと時間の制約がかかり、今、現在を表してるように感じるが、
『あなた』だと時間(過去や未来)にしばられなくなる。
この人は死んでしまってるのか。
→まどろっこしさを感じた。それは主人公、母親、パートの自分、妻といろんな自分がいる中で、どの自分に対しても満足していない感じがするし、それぞれの自分に折り合いをつけているように感じたから。
呼びかけることによって、もう一つの視点ができ、余白ができる。

などなど、
なんなんだ!!と皆さん思った模様。

私は『あなた』=読者(読んでる私)かと思い
自分ごとに置き換えやすくする作戦かと思っておりました。。。

しかし、新聞の記事を発見し井戸川さんはこのようにおっしゃっています。
「その当時の自分自身がしんどくて、誰かに見守っていてほしかったから」
子育ての辛い時期に自分を見守ってくれる存在が欲しかったその気持ちから、主人公を『あなた』と呼びかけているんだそうです。

それに「どう生きても喜びはあると書きたかった」と、書かれていました。

感じ方は人それぞれ。

ですがこの物語を読むことで、一緒に読んだ人と感じたことを話せるのも幸せで、この物語を読んだから、母親もひとりの女性であることを改めて感じ、自分が幼かった時の母親の姿が思い出されました。
その時の母親と同じくらいの年齢になった私は今の自分の視点で当時の母親の気持ちを考える事ができました。
そして、昔の忘れていた記憶を思い出し、違う視点からその世界に出会い直せたこの本は、記憶を蘇らせてくれる本として読んで良かったと思いました。

─ 文・宮崎 夢子 ─