2022年11月27日
課題図書:「駅前旅館」井伏鱒二
新進・中堅作家による大衆小説(エンタテインメント小説)に与えられる文学賞として有名な「直木賞」。その文学賞が設立された頃、1935年から1945年の間に日本で人気を博していたモノのひとつに「ユーモア小説」というものがありました。
その時代の大衆雑誌には必ずといっていいほど、ユーモア小説が掲載されてたそう。けれど直木賞の候補に挙げられるも受賞は叶わず。
直木賞の選考基準に疑問を持ったこの分野の小説を得意とする作家たちは、「ユーモア作家倶楽部」なる組織まで作ったそうですから驚きです!
ユーモア文学とは、「笑いを誘うために軽妙な調子で書かれた小説や詩歌。」
代表される作家の中にこの人の名前を発見!井伏鱒二さん。
『黒い雨』『山椒魚』『ジョン万次郎漂流記』などの作品をはじめ随筆・紀行・童話も手がけてきたことで知られますが、彼の作風のひとつにユーモアがありました。
その代表作が今回の課題図書です。
『黒い雨』『山椒魚』
『ジョン万次郎漂流記』などの作品をはじめ随筆・紀行・童話も手がけてきたことで知られますが、彼の作風のひとつにユーモアがありました。
その代表作が今回の課題図書です。
昭和30年代初頭、東京上野駅前にある柊元(くきもと)旅館で番頭を務める生野次平の問わず語りで描かれた小説『駅前旅館』。
主人公の生野は幼い時に旅館に連れてこられ女中部屋で成長。走り使いから中番を経ていまの立場に。生粋の旅館人。
「その時代のその道の人」のエピソードは、へぇーとまじ?の連続でした。
読書会に参加したメンバーからの感想は、
「井伏さんがこんな小説を書くのが結びつつかなかった。」
「旅館業の人たちが使う業界用語が面白かった。」
「あうんの呼吸で働く人たちのプロフェッショナルを感じた。」
「ある限られた時代の限られた地域に想いを馳せる文学。」
「修学旅行生が巻き起こす騒動が、中学時代の修学旅行を思い出させてくれた。」などなど。
20代のメンバーからは駅前に旅館があった時代を知らず、「懐かしむことは出来なかったけれど、今の人では書けないだろうし、この時代を知るためにはとても価値がある小説なのでは。」という意見もありました。
残念なことは、参加者のほとんどがこの小説に描かれている肝心要の「ユーモア」の大半を享受できなかったこと。これまでの課題図書とは違ったテイストに戸惑ってしまったのか?それとも深読みしすぎてしまったのでしょうか?
森繁久彌さん主演の『駅前』シリーズの始まりとなったこの小説の映画も観ておいたほうがいいのかもしれません。
この本に興味を持たれた方は、漫談や落語を楽しむかのごとく手にして頂けたら幸いです。主人公生野の観察眼と分析力はハンパない!
粋な大人のふるまいも学べますよ。
─ 文・山川 牧 ─