2017年7月

2017年7月14日
課題図書:「八十日間世界一周」ジュール・ヴェルヌ
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【そして私も旅に出たくなった】

赤メガネのメンバーのひとりが、出張で利用しているホテルのスリッパには、こう書かれているそうです。
「人生は旅」
これを、“人生とは旅のようなものである”と取るか、
それとも、“人生とは旅をすることだ”と解釈するかは、人それぞれでしょう。
今回の課題図書、ジュール・ヴェルヌの「八十日間世界一周」について言えば、
まさに“人生とは旅をすること”を描ききった作品のように思えます。

この小説に出てくる主人公、謎の金持ちフォッグ氏は、彼が所属する社交クラブのメンバーと、ある賭けをします。
それは、「八十日間で、世界一周は可能かどうか」というもの。
折しも、大英帝国の繁栄によって世界各所は、船の定期航路や鉄道の普及によって、つながれた時代でした。
そんな中フォッグ氏は、執事パスパルトゥーを伴って、その賭けに勝つべく、世界旅行へと出発!けれど旅の途中では、
夫と殉死させられそうになった女性の救出劇や、中国でのアヘン騒動、横浜のサーカスをめぐる爆笑話など、
旅を中断させられてしまいそうな事柄が、彼らに降りかかります。
そんな艱難辛苦を乗り越えながらの主人と執事の旅は、深みがあるわけでも、人生について考えさせられるわけでもない奇想天外な物語ですが、
インターネットなどあるはずもない1800年代後半に著者であるヴェルヌは、どうやってこれほど多くの情報を手に入れ、物語を綴っていったのか。
赤メガネのメンバーからは、そのリサーチ力への驚嘆が寄せられました。
「この物語が書かれた明治時代の浮世絵には、数多くの外国人サーカスが描かれていることから、ある程度調べて書かれているはずだ。」という話も。
私オノサクラが、なるほど!と思ったメンバーからの意見のひとつが、“万博の影響”でした。
1851年・ロンドン開催に始まり、1867年・パリ開催など、当時のヨーロッパは万博ラッシュ。人々の興味関心は、世界へ向けられていました。
フランス人の著者ヴェルヌもそのひとりだったのではないか。確かにそうだ!だからどんなに情報が少なくても、あれこれ調べて、書いていったんだろう。
きっと自分が世界を旅しているような気分になっていたのではないかと思われたのです。

キャラクターや、物語進行の面白さに加えて、この小説の最大のトリックは“時差”。
執事パスパルトゥーの時計を使って、たびたび登場する“時差”の話は、やがて最後のどんでん返しへとつながっていきます。
メンバーからは、「八十日間の構成と、仕掛けのうまさに感心した」。という声もあれば、
「なぜ四角四面な主人が、執事の失態には甘いのか。」というツメの甘さを指摘する声、
さらには、「それくらい雑なほうが、海外文学は読みやすい。」など、さまざまな声が上がりました。
そうです!雑なのです。だからこその“ダイナミズム”を味わえるのです。
この物語は、世界一周の旅を通して、堅物だった主人公には伴侶ができ、まさに旅によって人生が大きく変わるというアメリカ的ハッピーエンドで終わります。
「人生は旅」。どれほど情報が多い時代になっても、どれほど速く移動できるようになっても、世界には、まだまだ知らないところがたくさんある。
尽きせぬ興味に動かされ、“旅をする人生”を送るのも悪くないな、と思いました。すぐに行動を起こしたいところではありますが、もうしばらくは我慢。
定年退職後の楽しみのひとつに、とっておくことにします。