2018年10月

2018年10月12日
課題図書:「抱擁家族」小島信夫
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「第三の新人」と呼ばれている作家たちがいる。
安岡章太郎、吉行淳之介、庄野潤三、遠藤周作など。
そして、小島信夫もその一人。
「第三の新人」は、戦後文学の転換を促し、ありふれた日常をテーマに作品を描いている。
これまで伏せてきたことをひけらかすような、新しく自由に描かれている作品が多い。
今回の課題図書「抱擁家族」も『家族の崩壊』をテーマに扱っている。

大学の講師をしながら外国文学の翻訳をしている俊介は、
ある日、家政婦のみちよから、
俊介の家に通うアメリカ人兵士ジョージと、妻時子の浮気を知らされる。
それをきっかけに崩れていく家族の形。
家庭の崩壊を立て直そうとする俊介は時子との対話を試みるが、
空回りばかりで何をしても裏目にでてしまう。
そんな時、時子の乳癌が見つかってしまう・・・

さて、読書会に参加してみるとスタートから意見がぶつかる。
いい話だったな~と思って参加した私は、ここまで否定されるのかと驚き。
それもまた赤メガネの会なのでしょうか。

・時代を感じさせない文章
・崩壊の流れを興味深く読めた
・気持ち良くは読めなかったが、記憶に残る「良書」

に対して否定的意見が続々…

・登場人物全員に苛立つ、いいやつゼロ、愛せない
・始まりから崩壊しているため打つ手なしを永遠読まされている
・いい所が一個もない
・読んでいて疲れてくる

男女で意見が分かれていたことも印象的。
男性側は、真っ向から否定派が多く、
女性側は、内容から少し距離をとって読み、楽しんでいた模様。
否定派意見の原因の一つは
「登場人物が全員自分勝手すぎる!」ということ。
それぞれが自己中心的に行動するため崩壊が止まらない…
特に俊介の行動はその一つ一つが裏目に出てどんどん崩壊が進んでしまう。
なんなんだ、コイツは!と読んでいて腹が立つ場面も。

その他の大きなポイントは、浮気相手がアメリカ人ということ。
当時の時代背景を考えると、日本の転換期に際し、都市型の核家族化が進む中で、
浮気相手がアメリカ人兵士であり、そこから崩壊が始まった…という内容を考えると、
当時出版された作品としては、かなりセンセーショナルな作品だったのではないかという意見に一同納得。
普通の家庭にアメリカ人兵士が自由に出入り出来たことにも驚き。

更に話が進むにつれ、「これは悲劇なの?喜劇なの?」というテーマへ。
ただ読み進めていくと悲劇のように感じるかもしれないが、
家政婦のキャラクターだったり、会話の上滑り感をコミカルに描いていると捉えると「喜劇」なのではないかと。
それを踏まえて読んでいくと、登場人物達も少しずつ愛せるようになっていくのかもしれません。

このように、今回の読書会は意見がぶつかる盛り上がり回となる。
これだけそれぞれに意見が出るのだから「課題図書にはいい本!」という結果に落ちついた。

最後に個人的な感想を少し。
私は中学生の頃に親が離婚したので、ちょうど本書に登場する娘と同じ年頃。
想いを重ねてしまったのか、この家族は「自分勝手」というだけでは終わらせられなかった。
読書会での意見にも上がったのだが、それぞれの本音がわかるような描写がかなり少ない。
そこがより自分の想像で気持ちを補って読めた箇所であり、読者がそれぞれ自由に読めるように思う。

こんな家族の姿は表に見えないだけで沢山存在するのではないかと私は思っている。
普段見えない他人の家庭の中を覗けたようでとても興味深く読むことができた。
たとえ家族と言えど、コミュニケーションを図ることはなかなか難しいことだと改めて感じさせられた。

現代の家族のあり方を考えるにも、時代的な古さを全く感じず読め、
日々の自分を問い直す機会をくれた一冊となりました!