2018年3月16日
課題図書:「銀河鉄道の父」門井慶喜
メンバー間で概ね好評だった本書ですが、先ずは落涙軸での報告です。
佐野 宏★★★
父子の物語に弱いこともあり、電車で落涙。
まいこら★☆☆
父の想い・言葉が沁みて、心の涙が出た。
オノサクラ★★★
文章のリズムが心地よく、自分の家族を思い出して落涙。
ハセガワ★☆☆
父の深い想いに心の涙が出た。
宮城 恒太郎★★☆
涙袋に涙が貯まるも、ぐっと落涙を堪える。
山川 牧☆☆☆
感動しつつも、涙感はなし。
さて、本題。
これは誰のための物語か?
私のためであり、あなたのためであり、すべての人に向けた普遍的な物語です。
文句なしの良著で、さすが直木賞といったところ。
❖前提情報
恥ずかしながら宮沢賢治著書は小学校で読んだような読まないようなぐらいの知識で、全く予備知識と理解度がありません。
昨今の彼の評価についても存じてません。
よってこの実在した著名人の史実とフィクションが交差する構成と効果について、まともな意見が思いつきません。
赤メガネメンバーによっては、実は精神疾患を持っていたこと、継続的に創作活動をしていた事実、などがフィクションに対するノイズと感じた面もあったようです。
私は情報が無かったことが功を奏して完全なフィクションとして没入できました。
❖宮沢賢治
誰しも子供時代は無限の可能性を秘めた新芽です。
しかしながら何時しか天使の羽は抜け落ちて、現実世界に取り込まれていきます。
イチローのように若い頃に目標が定まり、周りからの評価を受け続け、最終的にその道で大成する。10万人に一人ぐらいでしょうか?
悩み、驕り高ぶり、恨み、心が折れ、愛情が芽生え、不貞腐れ、浮かれて、ブレにブレまくる。
そして死の直前にもなれば立派に悟りが訪れるなんてことは、幻想であることが突きつけられます。
特別に不器用な賢治?
違います。合わせ鏡で普遍性を見せてくれるが賢治です。
私も、あなたも、誰しもが賢治です。
❖宮沢政次郎
タイトルの通り、主人公は政次郎とも言えます。
こちらも時代やリージョンを越えた普遍性を感じます。
誰しも現実社会で生きる限り自分の色メガネ(価値観)でしか物事を見ることができません。
その色メガネは個性であり否定するものではありませんが、それ故に親として葛藤から逃れることができません。
ここでの親とは「父」だけではなく「母」も同様です。
自分の子供が大成してほしいと誰もが願いますが、それはあくまで「自分の価値観範疇内での大成」です。
現在の日本では学歴や大企業への評価が変動しているので自由度は増してはいますが、もし自分の子供が「AV女優になる!」、「オランダでマリファナ漬けの生活!」といったシチュエーションで「完全サポート!」と幸せを感じる親はいるでしょうか?
私は自信がありません。
日頃は職に貴賤なし、自分の生きたいように、と表層的なリベラルを気どっていますが、完全なるダブルスタンダードです。
ひょっとするとこの本を読む今の今まで「自分の母親はダブルスタンダードな側面が強かったな…」と年甲斐もなく葛藤が残っていましたが、実に恥ずかしいことです。
親とは本来的にダブルスタンダードであることが親の愛情なのではと感じます。
親のダブルスタンダードは肯定されるべきものと解釈を改めました。
政次郎は自身の価値観との葛藤に悩みながらも、賢治への愛は途切れませんでした。
私はただ単に愛情が途切れなかったことよりも、葛藤しながらも途切れなかったということに価値があると思います。
子を作り、親となって葛藤してみたいと思いました。
❖救いのメッセージ
テレビドラマのような安っぽい救いは描かれていません。
ブレ続け、悟りとは無縁の状態で、現生では世間の評価も受けられずに若くして病死した賢治です。
自分に置き換えれるとゾッとします。
しかし、だからこそ私達へのの救いのメッセージがあると思います。
「努力の分だけ見返りがあるとは限らない、だからこそ精一杯生きよ」
誰しも未来は分かりません。
白けてても、魂を込めても、結果は変わらないかもしれない。望みは叶わないかもしれない。
だったら余計に白けている暇はないかもしれません。
❖オキシフル
パラグラフタイトルになっているので深い意味ありそうな「オキシフル」ですが、メンバー間で意見が分かれました。
オキシフル=オキシドール=過酸化水素外用消毒剤です。
賢治はオキシフルを使って自分の死期をコントロール、つまり自殺したという見解です。
もしこの見解が正しいとするなら、理由は「政次郎に死に目を見せたくなかった」という推測になりますが、そこで何故?というクエスチョンです。
① 父への最後の気遣いであり、さらには本心の遺言の重荷を背をわせることを避けた
② 気遣いではなく、最後の反抗
③ 上記の①と②が混在したもの
皆さんはいかがお考えでしょう?